Third hirose


 

 2回目あの男と会ってから、一月以上が過ぎた。

 芳はその日、友人の誰かと一緒に夜の街へ繰り出していた。その誰かというのが、よく分からないのだが。

 友人と適当に街中をぶらついた後、飲み屋に入ろうと誘われて、目についた居酒屋に入る。特に深く考えずに入ったのだが、空いた席に着こうとした時に、ふと視線を感じて顔を上げた。

 店内の隅の方に、そこだけ鮮やかに彩られた男の姿があった。まるで男だけ別世界の存在のようで、さして際立つ姿でもないのに、やはり目を引いた。

「何やってるの?早く席着こうぜ」

 友人のそんな言葉も耳に入らないまま、芳は男の方に引き寄せられるようにして歩いて行く。

 男の方もまたすぐに芳に気付いたのか、顔を上げてじっとこちらを見て微笑んでいる。

 今度は大丈夫だ、と確信に近い思いを抱いて、男の近くに辿り着くと、隣いいですかと声をかけた。

 男が頷くのを見て安堵し、そっと隣の席に腰掛ける。その瞬間、まるでこうなることが前から決まっていたようにしっくりきて、居心地の良さに自然と頬が緩んだ。

 それからしばらく、男の隣で何をするでもなく過ごしたのだが、口を利かずとも分かりあえているという安心感のようなものがあり、リラックスしていた。

 周りの音が遠ざかる。僅かに触れる肘が全身に熱を与える。何も言わなくとも思いは同じだと感じた。

 その時、鈴の音色が鳴り響き、時間が来たのだと知る。

「また、会えますか?」

 男の方を見て尋ねると、闇に落ちる寸前、男は柔らかく微笑みながら頷いた。

 

 The last hirose