エピローグ

  レイドールとマンホーク。彼ら双子に訪れた残酷な運命を思い、完全なる部外者であるルエルでさえも胸を痛めた。

 ランドブールに四人で訪れた日から既に数日が経過し、あの日に罪のない哀れな双子を助けてから、レイドールはある決心をしたようだった。兄に成りすましていた男と共に、あの村で彼らのような運命を辿る双子が二度と現れないように、これからはあの村、そして国を挙げての改革を起こせないかと尽力するつもりだと言っていた。

 温かい昼の日差しが差し込む窓辺で、彼ら双子やあの男に思いを馳せていると、背後からエドウィンが近寄る気配がした。

「エド、お前は彼らがああなることを見越して見届けたのか?」

 すると背後から低く笑う声がした。「エド」と呼ぶのは向こうの彼の方だけだとなんとなく決めていたのだが、そんな小さなこだわりも不要だと思えて呼んだ。しかし、彼は細かくそこに反応した。

「さて、どうだろうな。その名で呼ぶな。俺はエドじゃない。面倒な体になったせいか、あいつがなかなか出てこなくなったようだがな。残念だったな。しばらくは愛しのエドに会えないかもしれないぞ」

「そうだな。お前たちはどうしてか別個の名前を持っていないから、区別するのにエドウィンとエドとそれぞれ呼ぶことにする」

「そうしな」

「だけど、俺が愛しいと思うのはエドだけじゃないからな。それは勘違いするな」

「……は?今、なんつった?」

「さて、俺もそろそろ仕事に戻らないとな。しばらくずる休みしていたものだからな」

「おい、待て」

 追いかけてこようとするエドウィンを振り返ると、珍しく彼の慌てたような顔を拝めたことに満足し、強引に引き寄せて口付けた。

「行ってくる」

「お、おう……ちっ、もう少し時間があれば……」

 ぶつぶつと文句を垂れるエドウィンを笑いながら、エドウィンの部屋を後にする。

 そして、歩き出したところで、そういえば、自分が怪物に成り代わる夢はランドブールでの一件以来見ていないなと思った。

 

ノストワールの中心街に位置する雑踏の中で、レイドールは男と共に歩きながら今後のことを話していた。

 あの時火の中に飛び込んだはずなのだが、レイドールはどうしてかほぼ無傷だったので、やはりあの時に見た兄の幻影は本物だったのかもしれないと思っている。

「あいつに頼るのは癪だが、表で十分な権力を持っている知り合いは他にいないからな。やっぱり行動を起こすには、エドウィンに後ろ立てになってもらう方がいいな」

「そうだな。あとは、俺たちもこの世界から足を洗わないと発言力を得られないだろうな」

「ああ、それはもちろん……。だけどその前に一つ重要なことを忘れてる」

 人差し指を突き立てると、男は首を傾げながら瞬いた。

「お前の名前だよ。もう俺は、お前をマンホークと呼ぶつもりはないし、何よりももう兄としては見れない」

 当然のことを言ったのだが、男は笑った。

「何でだ?別に、お兄さんと呼んでいいんだぞ」

「無理」

 だって、と心で付け加える。赤の他人なのに、牢でたった少しの間話していただけで同情しただけではなく、本当にそのまま一緒に生きるために支え続けてくれたことを知ってしまえば、嬉しさでどうにかなりそうだった。

 友達でもない、兄でももちろんない、もっと別の、それ以上の。

「じゃあ、俺の名前はお前がつけてくれ。俺の一番大切なお前がつけてくれれば、俺は嬉しい」

「……っ、ああ、分かった」

 どちらかというと無表情が多い男が、初めて溢れるような笑みを見せたのを見て、レイドールは大きく頷きながら笑っていた。

 

end