父親の弟に当たる叔父の存在は、桐生清和にとってさして重要ではなかった。普段から接点も特になく、精々親戚で集まるときに顔を合わせるくらいだった。

 叔父の桐生尚昌は真面目一辺倒な父と比べ、真逆とも言えるほどだらしがなく、特に女性関係は乱れていると聞いている。見た目は無精ひげを生やしながらも髪型、服装共にそれなりに整えてあるものの、どうにもその佇まいというか、空気が関わってはいけない人種のような気がしていた。

 清和は父親に似たのか、大学の同級生の中でもどちらかと言うと真面目で遊びをろくに知らないタイプの人間だ。きっと尚昌を苦手とする理由はそれで足りる。そのため、関わらずに済むのであればそれに越したことはないと思っていた。

 そんな状況が一変したのは、大学生活も半ばに差し掛かった残暑の厳しい九月のことだった。部屋に設置したエアコンが故障でも起こしているのか、つけていても生温い風しか出てこずに、なんとも寝苦しい夜、清和は夢を見た。

 夢にありがちだが、始め、それは現実の出来事だと思った。現実と同じく清和は自室のベッドに横たわっているのだが、ノックの音と共に男が入ってくる。体は金縛りに遭ったように動かない。

 目だけを必死で動かして男が誰かを確かめようとすると、男は清和の上に伸し掛かり、服を捲り上げながら唇を重ね合わせてくる。その感触が生々しく、押しのけようとしても叶わない。

 そして、男が僅かに唇を離した隙にその顔を見た。見てしまった。あの叔父、尚昌が欲望に滾った目をして一心に見つめてくるのを。

 ひっ、とか、やめて、とかを叫んだ自分の声で目を覚ました。飛び起きると、時間はまだ深夜のようで、自室は深い闇に包まれており、静まり返っている。大学に進学してから実家から少し離れたアパートで生活するようになったので、清和以外にはここにいないのだが。

 無論、叔父が清和のアパートに訪れるという状況もあるはずがないが、どこに住んでいるということくらいは父や母から聞いているかもしれなかった。夢の残滓を振り払おうにも、あまりに生々しく、まるですぐそばに本当に尚昌がいたような気がしてならず、しばらく落ち着かずに汗ばんだTシャツを摘まんで仰いだ。

 冷房を修理することを考えて冷静さを取り戻しながらも、結局はろくに熟睡できずに朝を迎えた。たかだか夢だろう、何をそんなに慌てているんだ、と何度自分に言い聞かせても妙に騒いだ胸の音が木霊しているようだった。

 

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