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 咲子は晶と結婚する前に、何が何でも確認したいことがあった。これまでもその「確認」は怠ったことはなく、隅から隅まで懸念は払拭してきたつもりだったのだが、結婚となれば更に徹底的に知り尽くしていたいと思った。

 過去の女性遍歴から、交友関係は一つ残らず、もはや本人より詳しく知っていると豪語できるほどだ。それは晶に直接聞き出した方が早いとは思うのだが、根掘り葉掘り聞き出すことで不快に思われることは目に見えているので、あらゆる手を尽くして調査することにした。

 信用していないわけではない。愛しているからこその行為だと説明したところで、理解されるとは思えない。

 晶の行動は音楽プレイヤーに見立てた盗聴器と、晶の部屋や持ち物に仕込んだ盗撮カメラで咲子に筒抜けだ。そんなことをされているとは思っていないからこそ、晶は咲子に結婚の申し込みなどできたのだろう。

 万一この行動が晶に気付かれた場合、結婚どころか今後一切近づくことさえ許されないかもしれない。それを知っているからこそ、めでたく晶とゴールインを果たすまでと期限を決めて、最後の大詰めときていた。 

 晶は浮気をするほど器用な人間ではないのだが、一つだけ咲子が気にしている存在がある。それさえ確認できれば、この異常行動は金輪際封じようと決めていた。

 そして、日曜日の午後、咲子は晶を尾行していた。音楽プレーヤー、もとい盗聴器の情報で、晶は今日、幼馴染の流堂(るどう)(みどり)という女と会う約束をしているということは知っている。 

 彼女と晶の関係は白に近いグレーといったところか。晶にその気がなくとも、翠の方は多少はその気があると睨んでいる。

 特に問題なのは、二人がこうして度々こそこそと密会していることで、そのうえその密会の内容が巧妙に隠されているのか、これまではっきりと明らかにできなかったことだ。 

 サングラスで顔を隠しながら晶の後をつけていくと、学生の間で有名な喫茶店に入って行った。咲子も迷いなくその後を追う。

 晶が座った席の後ろが幸い空いていたので、そこに腰掛けて様子を伺うことにする。適当に声をつくり、店員に飲み物を注文した。

 そして待つこと数分、目的の彼女が現れて晶の向かい側に座った。翠の表情は流石に眺めるわけにはいかないので、晶の背に隠れて自然を装って聞き耳を立てる。

「それで、愛しの恋人に結婚を申し込んだんだって?惚気なの?妬けるわねえ」

「まあな」

「まったくもう。否定もしないんだから」

 しばらくそうやって何気ない会話で談笑していたかに思われた頃、ふいに翠が声を潜めた。

「……でもこれで、あなたの悪癖も治るかしら。まさか彼女も、あなたがストーカーまがいのことをしているなんて思わないでしょうね」

 翠は一体、何を言っているのだろう。まるで自分のことを言われているようでひやっとしていると、晶が笑い声を立てた。

「大丈夫さ。向こうも俺と同じだから。お前と会う時はあれをつけないように気を付けていたけど、俺の物には大抵あいつがその道具をつけているし。俺は俺で、咲子のアクセサリーにも、服にも仕込んでいるからな。知らなかっただろう、咲子」

 そう言って咲子を振り返った晶は、これまでで一番最高の笑顔を浮かべていた。それに反応するように、耳につけたピアスから機械音がした。

 

fin