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 これまで幾度か他の男にも抱かれた経験はあるのだが、晶に抱かれる瞬間というのはそのどれとも違っていた。

こう言ったら晶に笑われるだろうか。それとも喜んでくれるだろうか。まさに至福のひとときだと伝えたら。

「ふふっ」

「どうした?」

 晶に抱かれながら、我知らず笑ってしまっていたらしい。不思議そうに問いかける声に対して、咲子が幸せだということを表現するように晶に口づけると、愛にまみれたキスが返ってきた。

「咲子、大事な話があるんだ」

 ベッドの中、余韻に浸って晶の体に身を寄せていると、晶が急に真面目な声を出した。顔を見上げると、声と等しく、それかそれ以上に真剣さを帯びた瞳とぶつかった。

「何?」

 理由もなく胸騒ぎがして、咲子はその瞳を見返すことができずに逸らす。すると、晶はゆっくりと起き上がってベッドを降りた。

「どうしたの?」

 離れがたくてついていきたいのに、その背中が冷たい気がして、恐る恐る声をかけることしかできない。晶はそんな咲子の様子を知ってか知らずか、ベッドから離れて荷物を漁り始めた。嫌な予感が募っていく。

「あったあった、これ」

 やがて何か小さな箱を取り出して、声音に喜色を滲ませた晶が振り返った。

「これ、何か分かる?」

 差し出された箱を見ると、急速に恐怖が鎮まり、代わりに別の意味で鼓動が高鳴っていく。

「これは安物だけど、働いて稼いだら高価なもの用意する。だから咲子、大学を出たら俺と結婚してください」

 差し出された箱の中で輝く指輪は、安物とは思えないほど、この世で最も美しく輝いていた。

 

 

 

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