いけちゃんとふーとの配信を見に行くと、二人はよくファンから流れ星のアイテムを投げられた時、それに願いをかけたりしているのを見る。
いけちゃんの方がそれは顕著《けんちょ》なようだが、俺はそんな二人の行動を真似して、願い事を心の中で呟《つぶや》くようになった。
どうかお願いだから、これから先もずっと二人と一緒にいられますように。それから、二人ともっと仲良くなれますようにと。
画面の中の偽物の流れ星だと分かっていても、俺はどうしても願わずにはいられなかった。その願いは純粋な想いだけではなかったかもしれない。
俺は二人が好き過ぎて苦しかったから、少しは報《むく》われたいと、そう思ってしまっていたんだろう。
だけど願いの大半は、これからもずっと二人と仲良く一緒にいられたらという切なる想いからだった。
「どうか、二人とずっと一緒にいられて、もっと仲良くなれますように」
ふーとのライブ配信で、日付が変わる間際に投げられた流れ星に向かって、初めて口に出して呟いた途端だった。
画面が突然発光し始めたかと思うと、辺りが眩《まばゆ》い光に包まれた。俺は咄嗟《とっさ》に腕で目を塞《ふさ》いで、光が過ぎ去るのを待つ。
謎の光が薄れて、部屋が再び元の暗さを取り戻した時には、ふーとのライブ配信は終わっていた。
俺は首を傾げながらアプリを閉じて、パソコンを取り出す。動画編集の仕上げに取りかかるためだ。
ところが、作業に取りかかり始めてからまもなく、強烈な睡魔に意識を奪われていき、そのまま机に突っ伏して眠り込んでいった。
夢は何も見なかったとは思うが、誰かの笑い声が耳元で木霊《こだま》していた気がする。
水の流れる音と、小鳥の囀《さえず》りが心地よく包み込む。柔らかく温かな陽射しが降り注いでいて、俺は幸せな気持ちで寝返りを打とうとした。
「かみべさん」
聞き慣れた声に、耳元で優しく呼び掛けられる。
「んー?」
俺は半分寝たままで、その相手を抱き寄せようとしたのだったが。
「かみべさん、起きて。みんな見てるよ」
今度は反対側から、また別の聞き慣れた声に話しかけられた。
「……え、みんな……?」
促されるままに、うっすらと目を開いていくと、間近にふーとといけちゃんの顔があった。とても愛おしいものを見守るような二人の顔つきに、俺は今すぐにキスをしたくなったのだったが、飛びかかろうとしたところをビンタされる。
「いたっ!いけちゃん、ひどい!」
俺がおでこを押さえて声を上げると、周りから笑い声が起こる。
二人に夢中で気が付かなかったが、周りには見たことのない多くの人たちがいた。ほとんどが女だったが、ちらほらと男も混じっている。どうしてか彼らを見ていると、胸が熱くなった。
「ほら、かみべさん。涙ぐむのはあと。写真を撮ってから」
「写真?」
「記念写真だよ!今日が何の日か忘れた?俺たちの半年記念日じゃん」
「ああ!そうか、だからこの人たちはみんな……」
ふーとといけちゃんに腕を引っ張られながら、俺はみんなの元へ走り出す。気が付けば、自分の顔にも満面の笑みが浮かんでいるのを感じた。
これが、流れ星の見せた夢でも構わない。必ずこの願いを実現してみせる。俺たちの手で。
そう思いながら撮った写真は、夢から目覚めた今でもずっと記憶に残り続けた。
END
next……8、その手につかんだものはへ